池上 正

消化器内科 准教授
池上 正

肝細胞がんは慢性ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)、肝硬変の方など、もともと基礎疾患として慢性の肝臓病を持っている方に高率に発生するのが特徴です。したがって、これらの病気を持っている方は肝細胞がんのリスクが高いといえますので、定期的(3〜6ヶ月に1回)な画像診断によるスクリーニングが必要です。また、肝細胞がんの治療法は多岐にわたり、腫瘍の数や大きさ、部位によって治療法が異なり、あるいは複数の治療法を組み合わせて行うことになります。近年では治療の標準化を進める意味で、肝癌診療ガイドラインが出版され、この中で治療方針の決定についてのアルゴリズム(図1)が提唱されています。今回は診断、治療に関するトピックスを取り上げてみました。

図1 肝がん治療選択のためのアルゴリズム(肝癌診療ガイドラインより)
肝障害度はもっとも肝機能の保たれている方がA, 肝機能の悪い人がCになります。切除は開腹手術による肝切除を、局所療法は、ラジオ波凝固術やエタノール注入療法を、塞栓は血管造影による塞栓療法を、動注は肝動脈にカテーテルを入れて抗がん剤を定期的に注入する方法をそれぞれ意味しています。
肝細胞がんの診断-新しい画像診断技術

従来から、肝細胞がんを効率よく検出するために、慢性肝炎や肝硬変の方に、重点的、定期的な画像検査によってスクリーニングすることが行われてきました。超音波(腹部エコー)や、造影剤を使ったCT, MRIが用いられてきましたが、最近これらに新しい手法、技術が加わりました。そのひとつは新しい造影剤を用いた超音波検査です。以前から超音波用の造影剤は存在しましたが、使いづらかったためあまり普及したとはいえませんでした。2007年から新たに登場した超音波用造影剤(商品名ソナゾイド)は、卵黄由来の微小な殻(シェル)の中に気体を入れたもので、低音圧の超音波でこれを壊すこと無く振動させ、発生する信号を拾うという方式をとっています。動脈から造影剤が流入し、最終的には肝臓の中のクッパー細胞という細胞に取り込まれますが、この間、長時間にわたって観察が可能になり、肝細胞がんをより鋭敏に検出できます(図2)。また、周囲との境界が通常の腹部エコーに比べて明らかになるため、ラジオ波凝固療法などを行う際の補助手段としても有用です。また、通常の造影CTに用いる造影剤は、副作用の問題から、腎機能の悪い方や、喘息のある方には使用できませんが、この超音波用の造影剤はこれらの方にも安全に使用できるというメリットがあります。

図2 造影超音波画像の一例
A: 右の通常モードの超音波画像でははっきりしない腫瘍が、造影剤注入により左の画像のように白く明瞭に見えます(矢印)。
B: また、造影剤注入後しばらく経過すると造影剤は肝臓の正常な細胞に取り込まれます。正常と異なる部分が黒くぬけて見えるようになります(矢印)。
肝細胞がんの治療-新しい分子標的薬

先に述べたように、肝細胞がんにはさまざまな治療法が存在し、それぞれの患者さまの肝機能、腫瘍の個数、サイズなどで治療法を変えたり、組み合わせたりする必要があります。しかし、病気の進行に伴い、手術やラジオ波、塞栓療法などの局所療法では治療が困難になってくる場合が往々にしてあります。高度進行がんの場合、他の部位のがんであれば抗がん剤が治療の選択肢となりえます。しかし、肝細胞がんでは、今まで科学的に有効性が証明された抗がん剤が存在しませんでした。近年、がんの増殖や発育に関連するさまざまな因子に特異的に効果を発揮する薬剤(=分子標的薬)が次々に登場していますが、そのひとつであるソラフェニブ(商品名ネクサバール)が5月から肝細胞がんの治療薬として保険収載されました。この薬剤を服用した場合は、服用しない場合に比較して明らかに腫瘍の増殖スピードが低下し、生命予後も延長することが明らかになっています。適応は、比較的肝機能の保たれている肝細胞癌の患者さまで、他の治療法が選択できない場合、とされています。当院でもすでに使用を開始していますが、肝細胞癌の新しい標準的治療になる可能性をもっていると思われます。

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