藤村 正樹

産科・婦人科 教授
藤村 正樹

婦人科の領域で扱う主な悪性腫瘍は、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんの3つといえます。この中で、子宮頸がんは検診の普及により、また、子宮体がんは早期に症状が出現する事が多い事から、比較的早期に見つかり、治り易いがんと考えられてきています。しかしながら、卵巣がんは、早期に発見することが極めて困難であり、病気が見つかった時には広範にお腹の中に広がっている事が多く、治療成績は前2者のがんと比較して明らかに悪いのが現状です。(表1、2)現在、婦人科の悪性腫瘍の治療を担当している医師にとって、卵巣がんの治療成績向上こそが急務となっています。

本稿では、卵巣がんが現在増えているのか減っているのか、そしてどのような女性がなり易いのかについてまず説明し、その上で、早期発見のためにどうすることが必要であるのかについて述べたいと思います。

表1 婦人科各種がんにおける5年生存率(世界)
子宮頸がん 69.9%
子宮体がん 77.6%
卵巣がん 46.4%
表2 婦人科各種がんにおける早期がん(I、II期)および進行がん(III、IV期)がん患者数の分布
子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん
早期(T,U期) 70.1% 84.1% 45.8%
進行期(V,W期) 27.9% 15.9% 51.2%
卵巣がんは増えているの?それとも減っているの?治りにくいの?

私が以前に富山医科薬科大学に勤務していた際の、富山県での卵巣がん患者さんの数の動向を図1にお示しします。ご覧になってお解り頂ける通り、近年急速に卵巣がん(上皮性卵巣がん)患者さんが増えています。これは、暫く前の富山県のデータですので、茨城県にそのまま当てはまるかどうかは定かではありませんが、少なくとも北陸地区の120万人の人口を擁する一つの県全体を網羅した非常に精確なデータですので、結論としては、日本全体でも卵巣がん患者さんは増え続けていると想定されます。(一般的に卵巣がんといった場合、そのほとんどの患者さんが「上皮性卵巣がん」患者さんです。以下上皮性卵巣がんを「卵巣がん」と略します)この卵巣がん患者さんの治療成績は、表1に示す通り、子宮頸がんや子宮体がんの患者さんの治療成績と比べると極めて悪い事が解ります。また、表2からも、卵巣がん患者さんが治りにくいのは、進行した段階で見つかって来られる方が多いからということがよく解ります。即ち、卵巣がんは、早く見つかればよく治るがんである可能性が高いのです。

卵巣がんはどんな人に起こりやすいの?

それでは、卵巣がんになり易い人はどのような人でしょうか。統計学的に明らかな事実として、@出産回数の多い女性や経口避妊薬(ピル)を常用していた女性には卵巣がんが少ない、A子宮内膜症を患っておられる患者さんは卵巣がんになりやすい、B家系の中に卵巣がん、乳がんの方が多い患者さんも卵巣がんになりやすい、等が知られてきています。@では、生涯における排卵の回数が多い女性程、卵巣がんになり易い事を示しています。女性が妊娠すると、排卵は停止しますし、分娩後の授乳が継続されている間も排卵は停止しています。一人の赤ちゃんを妊娠・出産されると、妊娠期間と授乳期間を合わせて、2年近くの期間排卵が停止することになります。お子様が10人もおられる女性は、10代から20年近くの期間、排卵が停止していることになります。回数にすると、1ヶ月に一度の月経があると仮定すると、12回×20年=240回もの排卵が抑制されている事になります。しかし、少子化そして未婚・晩婚化の著しい現代の女性の現状を鑑みると、昔の女性達に比べて、いかに排卵回数が多いかが解ります。これは即ち昔の女性と比べて現代の女性は、非常に卵巣がんになり易い状況にある事を示しています。また、同様の理由から、最近では月経時にお腹の中に、子宮の中を覆っている子宮内膜と言われる組織が生着増殖して起こってくる、子宮内膜症を患われる女性も増えてきている事が推測されており、これも卵巣がん患者さんの増加の一因かもしれません。Bの家族性(遺伝性)卵巣がんについては、この様な患者さんはそれ程多い訳ではありませんが、血縁には、乳がんと卵巣がんの患者さんが多くおられることが解っています。当院の乳腺科では、家系に乳がん・卵巣がんの多い患者さんの、将来の乳がん・卵巣がんのリスクを評価する目的で、遺伝子検査を施行しています。御心配のある患者様は是非お問い合わせ下さい。

<後編に続く>

図1 卵巣悪性腫瘍年度別頻度
ページ先頭へ